先祖の数を数えたら日本の人口を超えた話
最終更新: 2026-08-24
家系図をつくっていると、ふと気づくことがあります。先祖の数は、両親2人、祖父母4人、曽祖父母8人と、一世代ごとに倍になっていく。この調子で数え続けると、どこかでとんでもない数になるのではないか——。実際に計算してみると、この素朴な疑問は「日本人はみんな遠い親戚」という意外な結論に行き着きます。
倍々計算はすぐに爆発する
1世代を約30年として計算してみます。10世代前(およそ300年前、江戸時代中期)の先祖の枠は2の10乗で1,024人。20世代前(およそ600年前、室町時代)には約105万人。そして27世代前(およそ800年前、鎌倉時代)には約1億3,400万人となり、現代日本の人口すら超えてしまいます。
鎌倉時代の日本の人口は数百万人から1千万人程度と推計されています。全人口より多い先祖枠——明らかに何かがおかしいはずです。
答え: 同じ人が何度も登場している
種明かしは単純で、家系図を遡ると同じ人物が複数の位置に現れるのです。たとえば、いとこ同士が結婚すると、その子どもにとって曽祖父母のうち2人は同一人物になります。8つの枠を6人で埋めることになるわけです。
かつての日本では、村の中での結婚や親戚同士の縁組はごく普通のことでした。何世代にもわたってこれが積み重なると、先祖の枠は膨大でも実際の人数はずっと少なくなります。系図学ではこの現象を「系図崩壊(pedigree collapse)」と呼びます。先祖の系図は末広がりの木ではなく、途中から網の目になっているのです。
つまり、みんなどこかで親戚
この網の目をさらに遡ると、数学的には面白いことが起きます。十分に昔まで戻ると、「その時代に生きていて子孫を残した人のほぼ全員」が、現代のほぼ全員の共通の先祖になるのです。人口の混ざり方にもよりますが、日本列島の中だけで考えても、千年も遡れば大半の日本人は互いに遠い親戚だと考えられます。
「うちは平家の落人の末裔らしい」という言い伝えを持つ家は全国にたくさんありますが、この計算を踏まえると、有名な一族の血を引くこと自体は実はまったく珍しくありません。珍しいのは、その系譜が記録として残っていることのほうです。
家系図づくりへの含意
先祖の数の爆発は、家系図をつくる人にとって実践的な意味を持ちます。全系統を遡るのは原理的に不可能に近いので、どの線をたどるかを選ぶことになります。名字の線(父方の父方…)だけでも、母方の一系統でも、選んだ線の数だけ違う物語が現れます。
そしてもう一つ。あなたが先祖を一人記録することは、その人物のおびただしい数の子孫たちにとっての共通の記録を残すことでもあります。家系図は自分の家のためのものであると同時に、思いのほか多くの「遠い親戚」への贈り物になるのです。